その3 旅名人ブックス『ケンブリッジ 東イングランド』アングロサクソンの原風景

ISBN4-8222-2657-3    日経BP社   日経BP出版センター

文 田辺雅文  写真 小嶋三樹  定価(本体1400円+税)

歴史にもしもはないが、幕末の坂本竜馬、奇兵隊を組織した高杉晋作が
生きて、天下に号令をかけるところまで云ったとしたら、、、こんな人物
になったのではないか。そんなことを思わせる人物が、英国史にあらわれた。
オリバークロムウエルである。

イギリスの民主主義は早くから3歩前進、2歩後退をくりかえして、すすんできた。
有名なマグナカルタも大陸より早かった。しかし、神聖ローマ帝国から端を発した
ピューリタン革命は、やがて、オランダ経由でイギリスにわたり、ケンブリッジ
の学徒に火をつけた。この経由地の東イングランド(イ-ストアングリア)は、
海峡をへだてて、オランダがあり、まるで、アジア大陸の入り口の若狭のような
ところ。
ここからでた、一介の郷士であり、ケンブリッジのコレッジの一つ、シドニー
サッセクス コレッジに学んだ、クロムウエルは、王チャールズ一世の失政に
立ち上がった議会が、王から宣戦布告されるに及んで、やむなく立ち上がり
軍政を改革再編成して、アイアンサイズ(鉄騎兵)と呼ばれる、無敵精鋭軍
を組織して、王の正規軍をけ散らし、ついには英国史上、例のない、王の
処刑、共和政を樹立させる。

このとき、共和制議会で書記をつとめ、激務のクロムウエルを音楽で
なぐさめたのが、あの失楽園(パラダイスロスト)の著者、ジョン
ミルトンである。しかし議会政治は早すぎ、まとまらず、その無能さに
愛想をつかした クロムウエルは王冠を拒みながらも、ローマを模した
護民官として、独裁制を敷き、つつましいピューリタンの信条を貫き
通して死ぬ。

彼の死後、たった十一年で共和制はつぶれ、王制復古が行われる。
今度はクロムウエルは国家元首を処刑した極悪人として、ウエンスト
ミンスタ−寺院の墓から掘り起こされ、王の命日に絞首台につるされ、
その首は寺院の屋根の尖柱に25年も曝される。とある嵐の日に、
その首が地に落ち、こんどは、骨董品として、20世紀なかばまで
各地を転々とした後、科学的鑑定のもとに、母校の庭に葬られた。

東イングランドは中世の街が永久保存されたように残り、オランダに
似た、水路や湖沼がひろがる、美しい村や街、海浜、田園がひろがる。
この本は歴史をひもときながら、素朴な土地を訪ねるエッセイ風ガイド
ブック。百数十点の印象派写真家、小嶋三樹氏の作品をみるだけでも
行きたくなる一冊。