その2   旅名人ブックス 『ウエ-ルズ』 英国の中の異国を歩く

ISBN4-8222-2667-0   日経BP社   日経BP出版センター

文 田辺雅文  写真 小嶋三樹  定価(本体1500円+税)

ウエールズは実に不思議な国だ。とっくに英国連合王国の一部になって
しまっていても、イギリス人にとっては極めて異国であり、異質な
文化を温存している。国境には”ようこそウエールズへ”と”ようこそ
イングランドへ”という標識が対峙している

そして山河は人に優しく、日本の風景のように細やかな情緒の漂う。
人は山河と長年交流し、お互いに営み遇って、子を育む親のような
暖かみが、海辺にも、高原にも、山河や畑にも漂っている。
歴史的に完全に征服されたかにみえた民族が、じつは脈々と生き残り
独自の文化や伝統、言葉を今日まで守り、イギリスの中側から、
彼等の考え方や主張をみごとに貫き通している。

アーサー王の時代から連綿と続く、民族の力強い、伝統は、世紀を
越えて、シンフォニーのテーマのように、繰り返し、再現して、
人をその方向へと誘う。チューダー王朝の始祖ヘンリー七世、それ
を担ぎ出した郷士たち、教会の中に聖書と賛美歌の形でひそかに

言葉を遺したエリザベス女王の元の立て役者たち、そして、イギリス
が世界に冠たる時代に、宰相として大英帝国のかじ取りをした、
ウエールズ人の平民、ロイド ジョージ。

彼の演説はオペラのオラトリオのように聴衆を酔わせ、国の危機を
救った。そして、彼の時代に苛酷だった労働者たちに、かずかずの
現在われわれが、取り入れている福祉政策の基礎がはじめられて
いる。

ウエールズか世界に移民して散っていった人たちも、心のふるさとを
いつもそこに残し、慕い、再び帰りくると、それはカムリ’同胞’と呼ばれて、
再び仲間となり祖先の遺した伝統を担い、慈しみそしてやがて
その土となって帰っていく。観光客の訪れる山々の風光は、こうした
人たちの助力もかぎりなくおおきな力となって働いている。

そんな彼等だからこそ、動植物への造詣もふかく、エコロジーの関心の
レベルはどこより大きい。

この本はウエールズ各地を旅して、音楽をこよなく愛する詩人の国を
民族の地として、深く理解し、旅の中身を濃いものとするために
書かれたものである。